2008-08-20(Wed)

実態のないものを実感するまで

小さいころののび太は、
遊んでいて転んだとしても
その場で泣き続けるだけだった。

他の子供を見ていると、転んだりした場合、
どうやら母親を求めて、
遠くからでも「ママ〜!ママ〜!」と叫ぶとか、
泣きながら母親に抱きついてくるとか、
とにかく母親に甘えてくるようだった。





うらやましかった。




私ものび太に
「ママ〜ママ〜」なんて泣きながら駆け寄ってこられて
飛びついて抱っこなんか要求されてみたかった。


当時、のび太にとって私=母親は
「自分が生きるために必要」な人でしかなかった。

要するに「水」みたいなものだ。

人間にとって水がなければ生きていけないが
だからといって「水」を愛していたり、
「水」をいとおしく思ったり、
「水」にぬくもりを求めたり、甘えたりしない。

なくてはならないものではあるけれども
そこに愛情や感情などといったものは、普通、ない。

当時ののび太にとって
私はまさしくそんな感じだったと思う。




「どうやらこの人が自分の世話をしてくれて
 ご飯やおやつを与えてくれる。

 だからこの人が必要みたいだ。」



のび太が幼稚園の頃、
私は手術のために10日間入院しなければならなくなった。


私も小5の頃、実母が入院したことがあった。

不安だった。

母親の病状の心配ではなく、
母親が入院して生活に変化があることが不安だった。

ちょうど転校した時期とも重なって
母親の病状を心配する余裕など正直言って
当時の私にはなかった。

学校生活も家庭生活も大きく変化するなんて
それに対応できるかどうか、
どうしたらいいのか、
そんな気持ちだけでイッパイイッパイだった。

そして、私も体調を崩した。

元々、生まれたときから小学校卒業する頃までは
自律神経失調症とも言われていたから
ここで体調を崩すのは当然ともいえる。


だからこそ、のび太に私と同じような思いをさせられない。



義母に家に来てもらってのび太の世話をしてもらった。

義母に朝の支度の段取り、着替えの段取り、
おやつの時間、夕食の時間等、
細かく説明しておいた。

もちろん、のび太の障害のことも明かして、
それゆえに「いつもどおり」の生活をさせて欲しいことも話した。

考えに柔軟性のある義母は
私の作った「のび太のルールブック」と
「のび太の取扱説明書」を読んで、

「今まで大変だったんだね」

とだけ言って、お願いしたとおりに過ごしてくれた。




「ごめんね、のび太。お母さんがいなくて寂しい?」

「全然、寂しくないから大丈夫」


強がっているわけじゃない。

本当に「寂しい」という気持ちはないのだ。

というか、「寂しい」という気持ちがどういうものか、
わからないのだ。

それは自分も同じ道をたどってきて
今だから理解できる思いでもある。




他の子だったら、おそらく特に寂しくなくても

「寂しかったけど大丈夫」とか

「ずっとママのこと考えてるから寂しくないよ」とか

幼いながらも気の利いたことを言うらしい。



うらやましい。



しかし、改めて人間と言うもののすごさを思う。

4,5歳にして「相手の気持ち」を察して
「こんな風に言えば相手は喜ぶ」という事を
すでに会得し、実践できるのだ。


本来、そういうことができる方がすごいことであって、
素直に「全然、寂しくない」と言うのび太の方が
子供らしくも思えたりするから不思議だ。




それにしても、幼い頃、
母親が入院しても母親の病気より
自分の生活の方が心配だった私が母親になり、
自分が入院して「全然寂しくない」と言われて
ちょっと寂しい思いをするなんて、皮肉だ。




今でも、のび太は「母親」である私を
「水」のように思っているのかどうかはわからない。


「愛情」や「感情」や「気持ち」といった
目に見えないものの実感を得られるように、
実態のないものを感じて信じられる手本となるように
ただ、ただ、のび太を受け入れ、愛し続けるしかない。
2008-08-18(Mon)

歯がゆいふたり

聴覚過敏と関係あるのかどうかわからないけれど、
私は一度にいろんな音が同じボリュームで聞こえるのだ。

人と会話していてもその会話だけによっぽど集中しないと
ちゃんと言葉が聞き取れなくて
何度も聞き返してしまう。

それはどんなに静かな環境でもそうなのだ。

テレビを見ていても外を通る車の音や鳥の鳴き声が
集中しているテレビの音と
同じ音量で聞こえてくるのだ。

普通の人も実際はいろいろな音を同時に聞き取っている。
しかしちゃんと脳で「聞き取るべき音」を
はっきりと聞き取れるように音をより分けて感じているらしい。

私はその機能が劣っているらしい(と思っている)



よく、のび太が話しかけてきても

「え?何?」

と、聞き返してしまう。



すると、言葉の表現力に自信のないのび太は

「あ、やっぱり、いい」

と、言葉を閉ざしてしまう。



あああ・・・

これって私のせいなんだよね。

最近ののび太は、聞き返されるとすぐに諦める。

「あ、いい。なんでもない」

なんて、つれない事を言ってくれる。



「お母さんさ〜耳があんまり
 はっきり聞き取れないことがあってね、
 何回も聞き返すことがあるけど、
 のび太の説明がわからないから、じゃないんだよ。
 だから、お母さんが聞き返したら
 お願いだからもう一度、話して欲しいんだ。」

「ふ〜ん、わかった〜」




しかし、いざ聞き返すと、
のび太はやっぱり、口を閉ざす。


悲しい。




アスペ親子のちょっとぎこちないひとコマでした。




2008-08-11(Mon)

このままじゃいけませんか?

のび太と一緒に療育を受けていたMちゃん親子と
バッタリ再会した。

Mちゃんはのび太と同じタイプの
高機能自閉症と診断されている女の子。

のび太は当時パニックになると大騒ぎして号泣するタイプだったが
Mちゃんはパニックになると逃避するタイプだった。

嫌なことがあるとその場にいられなくなる。
すぐに教室から飛び出そうとする。

だからいつも仲良しのミッキーマウスのぬいぐるみと一緒に
療育を受けていた。

「ミッキーちゃんと一緒だったら頑張る」

Mちゃんの夢は
「大きくなったらディズニーランドのお姉さん」になること。

だから「嫌なことがあるからって逃げていたら
ディズニーランドのお姉さんにはなれないよ。
ミッキーちゃんは何でも頑張る子が好きなんだから」

なんて、いつも言われていた。

そのたびにMちゃんは

「ミッキーちゃんに嫌われないように頑張る」

と、泣きながら療育を受けていた。


しょっちゅう、逃亡、逃避を繰り返しては
ミッキーちゃんに連れ戻されることを繰り返していたMちゃん。

だけど、いつも笑顔で明るくて元気いっぱいだった。

のび太とMちゃんはタイプが似ていたため
就学前の個別療育も一緒に行っていた。

だんだん成長し、仲間意識も出てきた二人は
どちらかの気持ちが崩れると励ましあう言葉を掛け合ったり、
Mちゃんが逃亡するとのび太が
「ボク、Mちゃん連れてくる!」と連れ戻したり、
のび太がパニくると、Mちゃんが
「大丈夫だよ。泣かないでゆっくりやればいいんだよ。
M,待っててあげるからね」

なんて言ってくれたりする、いい関係だった。



そして、違う小学校に入学した。





お母さんとは何度かいろんなところで顔をあわせたけど、
Mちゃんとは4年ぶりに会った。
(残念ながら、のび太は留守番していたのでいなかった)

まるで別人のように落ち着いていたMちゃん。

きちんと挨拶してくれたMちゃんに
4年の月日の長さが感じられた。


でも、全然、、違う。

笑顔が全くない。

4年分の成長とは違うものを感じずにはいられない。


「元気?学校、どう?」と、たずねると、

Mちゃんママが、耳元でささやいた。

「学校、行ってないの。4年生になってから、ほとんど。
 いろいろあってね〜」

そうかぁ〜・・・

いろいろあったのね。

「先生と相性が悪かったのかな〜
とにかく、『性格が悪い』『普通はこんなことしない』とか
『普通に振舞え』みたいに言われて。
『普通』ってこと事態がわからない子でしょ。
っていうか、自分は普通にしているのに『おかしい、おかしい』
って言われ続けたら、誰だって辛いよね。
だからもう、『学校に無理して行かなくていいよ』って言ったら
『じゃあ、行かない』って。」


うんうん。

そんな辛い思いをして学校に行かなくてもいいよ。
私が親だったとしても、そう言うと思う。




この子たちの目標は多数派に合わせて生きることではない。

少数派の考えや行動でも理解してもらえて
自分らしく生きることであるはず。

そのために特別支援教育なんてもので
学校側に支援と配慮と理解を求めているものではなかったのか?



のび太を見ていても、時々、思う。

障害がある、なんてことを忘れちゃうこともある。

だけどそれは、
のび太が必死で多数派にあわせて生きているだけなのかも知れない。

本当の気持ちや本当の考えを押し殺して
懸命に多数派の真似をしているだけなのかもしれない。




私たちがこの子達に求めているものは
そんなことではないはず。

個性的で自分らしさを失わないまま、
周りに受け入れて欲しかったはずなのに。



「普通」になんかならなくて、いい。



でも、「周りに合わせる事」を強いてきたのは
大人の方なのかも知れない。

特別支援教育、なんて うそぶきながら。



2008-07-28(Mon)

いつか笑って話せるから

先日、車で1時間ほどの街に出かけた。

大好きな本屋Wがあるのだ。

とにかく規模の大きい本屋で探している本は
大抵見つかる。

ここに一日中いても飽きないだろう。


その本屋の隣にこれまたデッカイ雑貨屋さんがある。

そこに某有名アイスクリーム屋さん「31」がある。


のび太が幼稚園の頃までは本屋Wに行った帰りは
必ず「31」でアイスを食べる、

と言うのがこだわりになっていた。

真冬でも。

どんなにおなかがいっぱいでも。


しかし、この「31アイス」でいろんなことを学んだ。

いつも長蛇の列なので並んで待つことを覚えた。

自分でお店の人に「キッズコーンひとつください」と
注文も出来るようになった。

そして座って食べないとコーンからアイスが
落っこちることも学習したので
ちゃんと座って食べることが出来るようになった。




しかし、いつの頃からか、いつの間にか、
そのこだわりは消えていた。

本屋Wの帰りに「31アイス」を食べなくても
帰れるようになっていた。



しかし、先日はあまりにも暑くて誰からともなく、

「31アイス、食べよう」

と言うことになり、久々に長蛇の列に並んだ。


のび太は相変わらず「キッズコーンのチョコレート」

座って久々に食べた。



ふと、気が付くと、私たちが並んだときの
何倍もの子供づれの人達が列を成していた。



暑いしね〜そりゃぁ、アイスだよね。





その列から飛び出して走り出した1年生くらいの男の子。

お母さんらしき人が追いかけてきた。



男の子をつかまえて、お母さんが首から下げた
小さいファイルのようなものを開いて見せていた。

ここの「31アイス」の写真だ。


「アイス屋さん、並びます。
 並ばないと アイス、食べられません。」

と、凛とした口調で話しかけた。


男の子は、

「アイス、並びます」

と、つぶやいてお母さんに手を引かれ、列の最後尾に並んだ。



見ると、どうやら列に並んだ人の多くは
さっきのお母さんのように首から小さいファイルを下げている。

そして、男の子と同じような雰囲気の
幼稚園から小学校低学年くらいの子供達が大人に連れられていた。




「自閉症っぽい子達だよね?」

小声でのびパパが言った。

「うん。絵カード見せてたよ」



どうやら自閉症の子たちのサークルのようだ。

みんな整然と並んでいる。


並ぶことが辛くなって奇声をあげた子がいたけど、
その子に対してもすぐに、
手遊びをさせて気持ちを切り替えさせていた。



「えらいね〜ちゃんと並んで待てるなんてスゴイよ」



心の中で拍手を送った。







この子たちと同じくらいの頃ののび太と私。

必死だった。
必死で世の中のルールを教えていた。

今、ここで落ち着いて座ってアイスを食べてるのび太と私からは
想像も出来ないかもしれない。


そして、今、列に並んでいる自閉症らしき子達とお母さん方に
数年前ののび太と私が重なって見える。




こんなに落ち着いているのび太を
あの頃は想像できなかった。


もちろん、自閉症は治ることはないけれど、
きっと「あの頃」を笑って話せる日が来る。





明けない夜はない

止まない雨はない




並んでいる子供達とお母さん方を
ぎゅっと抱きしめたくなる衝動に駆られた、
真夏の午後の出来事でした。





2008-07-18(Fri)

インプットされた言葉を覆したい

きまりや規則にこだわって律儀に守ろうとするのが
のび太の特長だ。

長所でもあるが自分に勝手に足かせをしているともいえる。




「夜は9時に寝る」

「朝は7時24分に家を出る」

と言った、自分で勝手に決めたスケジュール的なものから、



「学校は行かなければいけないところ」」

「お友達とは誰とでも仲良くすること」

・・・と言ったぼんやりした定義のものから、



「廊下は走らない」

「給食は残さず食べる」

と言ったある意味、不文律のような、
でも規則ではないけどいつも言われ続けていること、



「人のものを盗んではいけない」

「人を殺してはいけない」

と言った、法律的なことや倫理的なこと。

これはもちろん守らなければいけないのだが
のび太の頭の中では決まりや規則で
自分の体や心をがんじがらめにしている節がある。






問題なのは、ぼんやりした定義のものだ。


隣のクラスのBちゃんが学校に行き渋っているらしい。

のび太にはそれが「悪」と言っていいほど
悪いことに思えるらしいのだ。

「Bちゃん、サイアクなんだよ!
 学校に行きたくないからって、途中までお母さんと来たのに
 嫌だ、って言って帰っちゃったんだよ!」

「そっかぁ〜でもBちゃん、どうしても嫌なことがあって
 行きたくても行けないのかもしれないよ。
 Bちゃんは頑張ってるんだから『サイアク』なんて
 言っちゃダメだよ」

「でも!学校はサボっちゃダメなんだよ!
 行かなくちゃいけないんだ!」

「なんでもないのにサボるのはダメだけど
 体や心が辛いときは休まなくちゃダメだよ!」
 


「学校は行かなければいけないところ」



・・・正確には、親は子供を学校に行かせる義務はあるが
子供には行く義務はない。

ま、行かないよりは行った方がいいのかな、と思う程度の
私の学校の見識だ。

辛い思いで無理ををしたり体や心を傷つけてまで行くことはない、
と思っている。


それをのび太に話しても、なかなか首を縦には振らない。

だって、のび太の中では

「学校は行かなければいけないところ」が
文章として正しいのだ。


一体、誰がのび太にそんなことを洗脳したんだ?!




のび太はお友達とのいざこざを、
余程でなければ家で話してくれません。

例えば、怪我をした、血が出た、泣いた、と言う事実があれば
言わざるを得ないけど、
黙っていればわからないことはわざわざ言わない。

それは

「お友達とは誰とでも仲良くすること」

が、正しい文章だから。


「お友達に何度も背中を押されて嫌だった」

は、「お友達」に続く文章として正しくない。


だから、口には出せない。



4年生になってYくん主導らしい、
のび太への嫌がらせやからかいが続いている。

それがのび太は気づけない。

嫌がらせされていることも、
いつもからかわれる標的にされていることも、
イマイチ自覚がない。

そのとき、その瞬間は嫌な思いをするが
鬼ごっこで、わ〜〜〜っと全体が走り回れば、
嫌な気持ちも忘れるのか?

でも、毎日毎日、同じように嫌がらせは続いて
少しずつエスカレートしていく。


「のび太に嫌なことをする人は
 のび太にとっては『いい友達』じゃないよ。
 本当にいい友達は、
 お友達に嫌なことをしたりしないはずだよ。
 嫌なことをする友達とは遊ぶ必要ないんだよ」

「・・・・・」

「高学年なんだからそういうことも考えて。
 高学年はお友達を選べるようにならないとね。
 それが自分を守ることでもあるんだよ」

「・・・・・」



絶対に納得できないのび太。




「本当の友達とは相手に嫌なことをしない人」

が、正しい文章になっていくことを願って、
口をすっぱ〜〜〜くして言い続けるしかないのかな。


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プロフィール

Author:まっぷ〜

のび太の母。元音楽教室講師。思いつきで行動する人。
嫌いなものは電話と人の集団。好きなものは色のグラデーションの羅列とカントリーリース。
聴覚過敏、絶対音感あり。
08年5月アスペ診断済み。パニック障害の傾向あり。
のび太に酷似する特徴を持つ。



のび太・・・小4(普通クラス在籍)。4歳で高機能自閉症と診断。
只今日本史に没頭、「将来は歴史学者になる」らしい。難しい算数問題、漢字(漢検4級取得)なども現在の趣味。
カメラアイの技あり。聴覚過敏、絶対?音感あり。
超敏感な部分と超鈍感な部分が混在する中「マイワールド」に生きる。



旦那(のびパパ)・・・のび太の父。お気楽がモットー。嫌なことも寝れば忘れる。こだわりがなく、どんな形でもどんな環境でも適応できる「スライム」のような人。
自称「俺ADHDかも?」。
のび太と寝相や仕草がシンクロしている・・・。線対称で寝ている。



ロック・・・のび太家の愛犬。オカマのビーグル犬。2歳。
アレルギーによるハゲが体のあちこちにあるものの、のび太が2歳くらいのにぎやかさと落ち着きのなさを彷彿させるやんちゃ犬。
横柄な寂しがりや。
のび太の大切な弟であり、親友。

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